誓いの精神史
中世ヨーロッパのことばとこころ
- 著 :岩波敦子
- 所 属:理工学部語学
- 出版社:講談社
- 初版年月日:2007
- 形 状:B6判/216頁
- ISBN:978-4-0625-8391-6
- 定 価:1,575円(税込)
米社会と日本を比較するとき、音声となったことばの重みの違いにきづくことがある。私たち日本人はことばにならないことば、すなわち音に変換されないことばを大切にし、そこに話者の思いと聞き手の思い遣りを重ね合わせる文化で育ってきた。沈黙のやさしさに慣れ親しんだ私たちにとって、考えていることすべてを言葉で表現しなければならない欧米式のコミュニケーションはときとして疲れを感じさせる。
理解されたいことを100パーセントすべて、いや120パーセント語り尽す文化と、語らない部分を残すことで相手との間に共有スペースを生み出そうとする文化、この二つの文化の相違は、相手の領域に踏み込んで自ら演じる攻めの表現と、相手を受け入れて演じさせる守りの表現の相違なのかもしれない。いずれにしても、そこにはコンセンサス形成のための先人の知恵が隠されている。
本書は中世ヨーロッパ社会で音へと変換された言葉である「誓い」が人々をどのように結びつけていたのか、言葉の表層にすぎない語句のみを問題とし、その背後に隠された真実に眼をつむる行為から、やがて人々が心の内面に目を向けていくプロセスを、歴史・文学・図版資料等から豊富な事例を紹介しつつ明らかにしている。